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札幌地方裁判所 昭和30年(ワ)444号 判決 1957年2月11日

原告 山本敏子

被告 坂口嘉一 外一名

主文

被告坂口達一は、原告に対し、金十六万二千九百七十四円およびこれに対する昭和二十九年四月十九日から完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

原告の被告坂口達一に対するその余の請求および被告坂口嘉一に対する請求を棄却する。

訴訟費用中原告と被告坂口嘉一間に生じた部分は原告、原告と被告坂口達一間に生じた部分は被告坂口達一の各負担とする。

この判決は、仮に執行することができる。

事  実<省略>

理由

一  原告が飲食店「乙女」に勤務し、被告嘉一が製粉業を営んでいる事実、原告主張の日時場所で原告が本件自動車から墜落し、その下敷となつて原告主張の傷害(注、左大たい骨開放性骨折、左大たい部そけい部ざ滅裂創、顔面、左前ぱく部、右ひざ擦過創など)を受けた事実、被告達一が本件自動車を法定の運転資格を有せず、飲酒めいていして運転した事実、被告嘉一は被告達一が法定の運転資格を有せず、無免許運転が犯罪であり、被告達一がこのため二回罰金刑に処せられたことを知つている事実、原告が重傷を受け回復が良好でない事実は、当事者間に争いがない。

二  まず、原告は本件事故は被告達一の過失により生じたと主張するので検討すると、成立に争いのない甲第二号証、同第三号証の一ないし五、同第四号証の一、二、同第六号証、原告本人の供述を綜合すると、被告達一は、昭和二十九年四月十八日午後八時五十分ころ法定の運転資格を有せず、かつ、飲酒めいていして本件自動車を運転し、その助手台に原告を同乗させて時速二十粁で本件十字路にさしかかり左折しようとした際、道路が非舖装ででこぼこがはなはだしいのに減速せず、その状況を確認せずに進行したため、本件自動車がくぼみで振動したはずみに、ハンドルを外し転ぷくさせて本件事故をひき起したことが認められる。他に右認定をくつがえすに足りる証拠は存在しない。

右認定によれば、本件十字路では減速せずにそのまま進行すると、振動により回転時にはいかなる事故がひき起されるかも知れないのであるから、被告達一は、減速し道路の状況を判断して安全に回転進行すべき注意義務があるのに、何らの注意をせずに漫然進行し、減速もせず道路の状況をも確認しなかつたのであるから、同被告の過失は免れない。

三  次に、原告は、本件事故は被告嘉一の被用者である被告達一の事業執行中にひき起されたと主張するので検討すると、これにそう成立に争いのない甲第三号証の二、五、六は、後記証拠に対比して容易に信用することができず、かえつて、証人内山正志、同細山勝行、被告本人達一、同嘉一の供述を綜合すると、本件事故発生当時被告達一は被告嘉一の被用者ではなく、右発生当日被告達一は被告嘉一から命ぜられて営業上の資材を運搬するため本件自動車を借り受けて運転したのではなく、単に乗り遊ぶためにみずから本件自動車を訴外塚本製粉所から借り受け運転したことが認められる。他に右認定をくつがえすに足りる証拠は存在せず、この点に関する原告の主張は理由がない。

四  また、原告は、被告嘉一は被告達一と共同不法行為者であると主張するので検討すると、前記認定のとおり被告達一は、乗り遊ぶためにみずから本件自動車を借り受け運転したものであり、被告嘉一には何らの責任はないから、この点に関する原告の主張も理由がない。

五  被告らは、原告は被告達一がめいていしていたのに同乗を申し入れて回り道を希望し、かつ、被告達一が固定した取手をつかむように注意したのにこれに従わなかつたから、原告にも過失があつたと主張するので検討すると、これにそう被告本人達一の供述は、後記証拠に対比して容易に信用することができず、かえつて、証人兵藤サチ子の証言、原告本人の供述によると、被告達一のめいてい状態は原告にとつて判別できない程度であり、原告は、前記飲食店「乙女」から訴外浅井までの二町の間を同乗しようとしたにすぎず、回り道を希望せず、かつ、同被告は停車せずに速度を増して乗り回したので恐ろしくなり、再三減速または停車を要請し、終始固定した取手をつかんでいたことが認められ、原告に過失があつたとはいえない。他に右認定をくつがえすに足りる証拠は存在しないから、被告の主張は理由がない。

六  そこで、原告の主張する損害額を検討する。

(1)  原告は、慰藉料として金百万円を主張するので考えるのに、成立に争いのない甲第一号証、原告本人の供述を綜合すると、原告は、本件事故による傷害のため昭和二十九年四月十八日から昭和三十一年三月十八日まで前後五回にわたり手術を受け、高熱と苦痛に悩まされたが、左下肢の機能障害は相当回復した。しかし、左ひざおよび足首の関節は屈伸ができなくなり、左下肢は一寸位短縮しては行はさけられず、自由に運動の機能は障害され、また、顔面の擦過傷は分別できない程度であるが、左大たい部、右大たい部、右下たい部の各種傷あとの醜状は残存している。このため将来肉体的には上半身の作業や結婚生活には堪えうるとしても、結婚適令期にある原告が、多大の精神的打撃を受けたことが認められること、その他本件口頭弁論にあらわれた諸般の事情を考え合せると、被告達一の支払うべき慰藉料の額は金五万円が相当であると認める。

(2)  原告は、得べかりし利益金十一万四千八百七十四円を喪失したと主張するので考えるのに、原告本人の供述によると、原告は前記飲食店の店員として一箇月金四千円の純収益があつたが、本件事故により昭和二十九年五月から昭和三十一年十二月までの三十二箇月間合計金十二万八千円の純収益をあげうると認められるので、その金額からホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除した金十一万二千九百七十四円が本件事故による損害である。

七  してみれば、被告達一は、原告に対し、慰藉料金五万円ならびに原告の得べかりし利益の損害金十一万二千九百七十四円合計金十六万二千九百七十四円およびこれに対する本件事故発生の日の翌日である昭和二十九年四月十九日から完済にいたるまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

よつて、原告の本訴請求は主文第一項の限度において正当として認容し、その余の請求は失当として棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条、第九十二条を、仮執行の宣言については同法第百九十六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉田良正)

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